多要素認証の必須化が進む?認証システムのセキュリティ対策動向

近年、サイバー攻撃が高度化・巧妙化するなかで、オンラインサービスや業務システムにおけるセキュリティ対策が一段と重要視されています。その中でも、多要素認証を必須とする動きが国内外で加速しつつあります。直近の動きでは2025年4月25日に日本証券業協会が多要素認証の設定必須化を決定した発表をしています。
本記事では、多要素認証の基本をはじめ、他の認証方式との違いや導入の背景、そして運用時に気を付けるべきポイントを解説します。
目次
多要素認証とは?その仕組みと基本的な3要素
多要素認証とは、複数の異なる要素を組み合わせて認証を行う仕組みです。これにより、一つのシステムやアカウントに対して複数の確認手段を用いるため、高いセキュリティ強度が期待できます。
多要素認証は、単要素認証(パスワードのみ)とは異なり、複数の手段で利用者が本人かどうかを確認するため、不正アクセスのリスクを大幅に低減します。たとえば万が一パスワードが流出しても、別の要素での確認が必要になるため攻撃者が認証システムを突破しづらいのが特徴です。最近では金融業界や公共機関などで導入が必須化されはじめ、オンライン取引やサービスアクセス時に求められることが増えています。
認証における基本的な3要素は次の通りです。
知識情報:パスワードやPIN
知識情報とは、ユーザーだけが知っている情報を利用する認証要素です。一般的な例がパスワードや暗証番号(PIN)であり、最も昔から使用されてきた認証手法でもあります。ただし、パスワードは使い回しや安易な設定がされる場合が多く、漏えいが起こりやすいため注意が必要です。
所持情報:スマホやトークンデバイス
所持情報とは、ユーザーが物理的に持っているデバイスやアイテムを認証に利用します。スマートフォンを用いたワンタイムパスワードや、ICカード、トークンデバイスなどが該当します。万が一パスワードが漏れても、所持情報を持たない第三者は認証を突破しにくくなるため、安全性が向上します。
生体情報:指紋や顔認証
生体情報は、ユーザーの身体的特性を用いた要素で、指紋認証や顔認証、虹彩認証などが代表例です。手間が少なく高精度に本人確認ができる一方、誤作動やデバイスの対応状況によっては運用に難しさを伴うこともあります。しかし複数の認証要素を組み合わせることで、利便性とセキュリティの両立が可能になります。
二要素認証や二段階認証との違い
多要素認証と混同されがちな二要素認証や二段階認証ですが、実際には仕組みや特徴に違いがあります。
「多要素認証」は認証の3要素である「知識情報」「所持情報」「生体情報」のうち、2つ以上の異なる要素を組み合わせて認証することを指します。3つ以上の要素を組み合わせる場合も含む広義の概念であり、より多様な認証要素を活用する点が特徴です。一方で、二要素認証や二段階認証は用いる要素の数や手順が限定されるため、あいまいに使われると混乱を招きやすい側面があります。
二要素認証
二要素認証は、多要素認証の一部として位置付けられるケースが多く、パスワードとSMSコード、あるいはパスワードとトークンといったように、3要素のうち2つだけを使って認証します。これだけでも単要素認証と比べると安全性は高まりますが、さらに生体認証などを組み合わせると強固な多要素認証になります。
二段階認証
二段階認証は、認証を二段階に分けて行うことを指します。そのため同一の認証要素を別のステップで二度使用しても成立するケースがあり、必ずしも多要素認証というわけではありません。たとえば、パスワードを入力した後に別のパスワードを再度要求する方式は二段階認証ですが、要素自体は同じ「知識情報」であるため、多要素認証の定義からは外れる場合があります。
多要素認証が必須化される背景と理由
近年、多要素認証を導入する企業やサービスが増えていますが、その背景にはさまざまな理由があります。
特にフィッシングやマルウェアなどの攻撃手段が高度化し、パスワード漏えいのリスクが高まっていることが大きな要因です。さらに、リモートワークやクラウド活用が普及する中で、いつでもどこからでも安全にアクセスできる体制が求められるようになりました。結果として単要素認証の限界が顕著になり、多要素認証が必須化される動きが各業界で進んでいます。
実際に、証券会社などではIDとパスワードだけでの認証では利用者を守りきれないケースが増えており、多要素認証の導入が早急に求められています。Microsoftが提供するAzureサービスでも、2024年以降はサインイン時に多要素認証を必須化する方針を打ち出しており、業界全体に多要素認証の導入が波及しています。
業界ガイドラインや多要素認証の必須化動向
金融機関や行政機関などでは、アカウント乗っ取りリスクを低減するために多要素認証の導入を積極的に奨励するガイドラインを制定しています。
発行元 | ガイドライン名 | 発行日 |
---|---|---|
厚生労働省 | 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版 システム運用編 | 令和5年5月 |
内閣官房内閣 サイバーセキュリティセンター |
重要インフラのサイバーセキュリティ部門におけるリスクマネジメント等手引書 | 令和5年7月 |
総務省 | 地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和6年10月版) | 令和6年10月 |
テレワークセキュリティ ガイドライン 第5版 | 令和3年5月 | |
クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン(第3版) | 令和3年9月 | |
5Gセキュリティガイドライン第1版 | 令和4年4月 | |
経済産業省 | 工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン Ver1.1 | 令和7年4月 |
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA) | 組織における内部不正防止ガイドライン 第5版 | 令和4年4月 |
一般社団法人 日本自動車工業会、 一般社団法人 日本自動車部品工業会 |
自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドライン 2.2版 | 令和6年8月 |
多要素認証の運用ポイント
多要素認証を導入することでセキュリティと利便性のバランスをどのように保つかが運用の鍵となります。
多要素認証によってアカウント侵害の99.2%以上を防ぐ効果があるとする研究論文も報告されており、セキュリティ向上の主軸として非常に有効です。しかし一方で、認証ステップが増えることでユーザーの手間や運用コストがかさむ懸念もあります。これらを最小限に抑えるには、運用ルールの整備とユーザー教育が不可欠です。
安全性を高めるためのルール設定
安全性を確保するには、パスワードの定期変更や強度チェックといった基礎的なルール設定が重要です。さらにアクセス権限を厳密に管理し、利用者ごとに必要最低限の権限だけを付与することでリスクを減らせます。継続的な監査やログの確認も欠かせません。
ワンタイムパスワードの併用
ワンタイムパスワードは使い捨ての認証コードを用いるため、仮にコードが漏れても再利用されるリスクが低いのが利点です。生体認証や物理トークンと組み合わせることで、さらに強固な多要素認証を実現できます。
端末紛失時の対策と認証情報管理
スマートフォンやトークンデバイスを紛失した場合、遠隔ロックやデバイスの情報削除を迅速に行う体制が必要です。多要素認証の特性上、所持情報が失われると正当な利用者でもログインできない事態が発生するため、緊急時のサポート体制や代替手段の用意も欠かせません。
まとめ・総括
多要素認証は、パスワード単一の認証と比べて遥かに高いセキュリティを実現します。導入をスムーズに行うためには、企業や個人がその仕組みとメリットを理解し、適切に運用や管理を行うことが不可欠といえます。
特に金融取引やクラウドサービス利用が増加する現代においては、必須化の流れが今後さらに広がるでしょう。利用者は、必要となるデバイスや生体情報の準備、パスワード管理の徹底などを行い、利便性と高いセキュリティを両立する取り組みを継続していくことが重要です。
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